ピックアップ本

朝日新聞出版 「自分」を殺すな、武器にしろ 

インタビュー

ニシト:皆さん、こんにちは。今日は『「自分」を殺すな、武器にしろ』を書かれました瀬戸和信さんにお越しいただきました。瀬戸さん、実ははじめましてなんですよね。

瀬戸さん:はじめまして。ようやくお会いできてうれしいです。

ニシト:瀬戸さんとは全然面識なかったんですけど、facebookのメッセンジャーでニシトの『本音に気づく会話術』を読みました、すごくいい本だった、と感想を届けてくださったんですね。読者の方からメッセージをもらうことって、そんなにないんですよ。しかもいただいたメッセージが明るくて、真っ直ぐで、人間味があふれていたんです。「素敵な方だな」と思ってfacebookを見てみたら、この方も本を書いていらっしゃる。それで読ませていただいたのが『「自分」を殺すな、武器にしろ』です。

この本を読ませていただいたときに「これ、私が今ちょうど考えてることだ!」って思ったんです。人にはみんな得意なこと・不得意なことがありますが、ついつい「不得意を克服しなきゃ」って考えがち。でも、みんな得意が違うんだから、お互いに助け合って、支え合って生きていくことができたら、もっともっと暮らしやすくなるんじゃないのかな。みんなもっとキラキラ生きられるんじゃないかな。そう思っていたときに、まさに「そうやって生きようよ」と書いてあったので、これは運命だ、お会いしたいと思って。せっかくお会いするんだったら公開デートにしてAkiko’s Book Clubでこの本をご紹介したい、ということで来ていただきました。

瀬戸さん:ありがとうございます。この辺りにはよく来ているんですが、ここのお店ははじめてです。

ニシト:こちらの素敵なお店は、目黒区の八雲にあるオニバスコーヒーさんでございます。実は瀬戸さんは、こちらのお店にある「Sonos(ソノス)」というスピーカーの会社の日本代表をやっていらっしゃるんですよね。スピーカーの話もあとからお聞きしたいんですけど、まずはなぜこの本を書こうと思ったのか聞かせていただけますか?

瀬戸さん:日頃Sonosでチームで働いていますが、できないことを無理やりやっても楽しくないんですよね。やってる側も、それをお願いしてる側も。その人がもっと輝ける、キラキラできる場所に時間を使ってもらったほうが、結果的にチーム全体も良くなると思っています。ただ、言うのはすごく簡単なんですけど、やるのが難しい。本って書いていると自分も学べるじゃないですか。

ニシト:本ってめちゃくちゃ学べますよね。書いていると。

瀬戸さん:それが書いた理由です。これを書くって覚悟を決めると、自分も意識するし、それがチームにも影響して、会社の業績にも影響すればラッキーだなと思って。

ニシト:「チームのために書きたい」という思いも結構あったわけですか。

瀬戸さん:カッコ良く言うとそうですけど、自分のためでもありますね。

ニシト:わかります。私も『本音に気づく会話術』を書いたときに、自分が学んできたことを1回整理したいなという気持ちがありましたね。大体こういうのを書く人って、自分が苦手だから学んでるし、書くんですよ。

瀬戸さん:そうですよね。あたかも自分ができているように書きますけど、やっぱり人間だからできるときとできないときがありますし。どちらかというとその領域に人より時間をかけているし、失敗もしてるから書いてる。

ニシト:これ、皆さんに言っておきたいですね。本を書いている人って、書いていることを完璧にできていると思われがちなんですよね。

瀬戸さん:勘違いされますよね。

ニシト:全然できてないから! だから、瀬戸さんが「『本音に気づく会話術』は日本人全員が読んだほうがいいよ」って言ってくださってちょっとプレッシャーでした。私も、普段からここに書いたことを全部できているわけじゃないんですよね。

瀬戸さん:わかります。書くと覚える、書くと聞かれるので答えて覚える。結局自分に返ってくるので、「80%自分のため、20%チームのため」ってところでしょうか。

ニシト:なるほどね。そうやって書かれたものが多くの人の手に渡って、役立ててもらえたらこんなにうれしいことはないですよね。

瀬戸さん:本当にそう思います。

ニシト:誰もがこの本に書かれているように「自分の才能の種を見つけて育てて強みにしたい」と思っていると思うんです。だけど、見つけるのって簡単ではないですよね。瀬戸さんは7回転職されていて、今が8社目なんですよね? 私は会社員をやったことがないのでわからないんですけど、日本の働き方としては転職回数多いほうですよね?

瀬戸さん:もう負け犬ですよ。日本で7回も転職したら。

ニシト:外資系でずっと働いてる方は、それくらい転職するのって珍しいことではないんですか?

瀬戸さん:自分では多いと思っていますけどね。ただ、面接で海外の人と話をすると「君はA社でこういう経験をして、B社ではそういう経験して、C社ではこんな経験したのね」ってすごく興味を持ってもらえるんですよね。

ニシト:ネガティブな印象を持たれることがないってことですか?

瀬戸さん:ないですね。一通り経歴を話して、最後に「自分の経験のどこが貢献できそうですか?」と聞くと、「あなたの1社目のここと、3社目のここと、5社目のここが今の職務に合っているから、すごく役に立つと思う」って言ってくれるんですよね。

ニシト:そういうものですか。

瀬戸さん:ただこれが日本の会社は「なぜ転職したんですか?」「なぜ会社を変わったんですか?」という質問が多いですね。海外は「そこでどんな経験をしたのか?」「どんな失敗をして、どうやって乗り越えてきたのか?」という質問のほうが多くて、「なぜ会社を変わったか?」はあまり聞かれたことがないですね。

ニシト:日本人の感覚でいくと「この人、うちの会社に来てくれてもまたすぐ辞めちゃうんじゃないかな」「あきらめ癖があるんじゃないかな」という憶測が働いているような気がしますね。

瀬戸さん:目的が明確であれば、たとえば「3年後にここまで行くのに、あなたの能力が必要だ」「3年後にそこに行くために自分の能力が役に立つ」とお互いわかっていれば、その思いも薄れると思うんですよ。そこのマッチングの精度の問題なんじゃないかなと思いますけどね。ただまあ、運というかご縁だとも思いますけどね。

ニシト:ですよね。仕事はご縁だと思います。仕事に限らずすべてですけれども。瀬戸さん、ずばり聞いていいですか? 瀬戸さんの強みと弱みって何ですか?

瀬戸さん:その質問を一番恐れてたんですよ。

ニシト:なんでですか?

瀬戸さん:即答ができないからです。変わるんですよ。変わっていく。

ニシト:強みも弱みも?

瀬戸さん:そうです。会社にいるときの僕の強みと弱み、家族の中にいるときの強みと弱みって違ってくるんですよね。属する集団によって、自分の役割、そこで貢献できることって違ってくる気がしているんです。たとえば、会社では目標を持って計画を立てるところは僕が貢献しなきゃいけない。ただ家庭で同じことをやると妻とぶつかっちゃうので、家庭の計画は逆に任せる。

ニシト:奥さんも計画立てるのがお好きなタイプなんですか?

瀬戸さん:そうですね。会社にいるときと家庭にいるときでは演じる役割が違う。

ニシト:そうですか! どの環境においても強みは変わらないイメージを持っていたんですけど、どの組織なのか、家庭やクラブ活動みたいなものか、そしてチームのメンバーによって自分が発揮できる強みが変わってくる、ということですか?

瀬戸さん:そう思います。僕は逆に会社勤めしかしたことないんですけど、ある会社に属したときはすごく自分が輝いていて、ある会社に行くとやることがまったく同じなのに輝けなかったときもあるんですよね。自分は変わってないんです。仕事もほぼ変わっていない。けれど一方では輝けて、一方では輝けないんですよね。属する集団が違うだけで、微妙にギアがずれてくるんじゃないかなと思っていて。だから今の会社でうまくいかなくても、環境が変わればうまくいく場合もある。

ニシト:自分が能力を発揮できない、あるいはチームとうまくやれないときってどうしても何かのせいにしたくなる。だけど、実は自分に原因があることも多々あると思うんですよ。これは「逃げ」なのか、それとも自分の意志で環境を変えている「積極的な変更」なのか、そこってご自身の中でどう感じていますか?

瀬戸さん:僕は逃げてばっかりきたので。時々逃げないと参っちゃいますよ。ただ逃げられないときもある。大前提は全部自分のせいですよ。機会があったから転職した、とかカッコ良く言いたいですけど、真実はそうじゃないですよね。

ニシト:Sonosっていうスピーカーはアメリカ製なんですよね? 日本とアメリカは住環境も違いますし、音楽の聴き方も違うと思うんですが「海外のものを日本人の文化と暮らしに合う形で展開していくのが自分は得意なんだな」と気づいたのは、どういうタイミングだったんですか?

瀬戸さん:Sonosの前にいたのがfitbitっていうアメリカの会社なんです。firbitは健康管理をする腕時計で、Apple Watchと同じように心拍数とかあらゆる体の数値を測れます。最初にアメリカで爆発的に人気が出て、日本でも展開しようってなったときに違和感を覚えたんです。

アメリカはジムの数が日本より多いんですね。保険の制度もアメリカと日本ではまったく違う。アメリカではフィットネスやエクササイズは生活の一部なんです。fitbitのメッセージは「fitbitをつけることによって、あなたがすでに生活の一部として取り入れているエクササイズとフィットネスをより継続できるようになりますよ。モチベーションが上がりますよ」なんです。

ニシト:普段スポーツをしていることが前提なのがアメリカだってことですか?

瀬戸さん:はい。広告もピチピチのTシャツを着てロッキー山脈の大自然で走っていたり、ジムで20kgのバーベルを持って「fitbit!」とかやってる。最初はそのイメージで日本でも展開しようってなっていたんです。でも、そもそも日本はジムが少ないですし、当時はみんな電車に乗って夜遅くまで仕事して、いつジムに行くんだという環境でした。そもそもピチピチの服着て自然の中を走ったり、ジム行ってバーベル持ち上げたりするのって、日本人に素直に受け入れられるとは思えなかったんです。

「じゃあ、日本人に腹落ちする方法ってなんなの?」「日本には日本のやり方があるよね」と考え始めたときに、自分の役割と自分が持っている才能の種が掛け合わさって、たまたま強みとして発揮できたという感じです。

ニシト:そうなんですね。ちなみにfitbitは日本でどうやって展開されたんですか?

瀬戸さん:日本ではGoogleトレンドで「エクササイズ」「フィットネス」の検索数が低かったんですね。当時検索数が高かったのは「睡眠」と「美容」だったんですよ。アメリカは「エクササイズ」「フィットネス」がすごく高くて、「睡眠」と「美容」はすごく低かったんです。

ニシト:そうなんだ!

瀬戸さん:この腕時計、実は睡眠の質も測れるんですよ。出典は忘れてしまったのですが、寝ついてからの90分間でどのくらいの質の睡眠が取れるかで、成長ホルモンの出方が違うんですって。だとしたら、これであなたの健康を測ったほうがいいですよ、睡眠の質を測ることが結果的に健康につながりますよってことで。

ニシト:エクササイズをモチベーションにするのがアメリカ、日本は健康維持のツールにしたら広まったということですか?

瀬戸さん:そうです。

ニシト:瀬戸さんが自分の感覚を大切にされたっていうのが鍵だったんですかね。だって、違和感があったわけですよね。

瀬戸さん:そうですね。その違和感を無視しなかった。逃げなかった。これは向き合った。

ニシト:それってすごく大切なことだと思います。私たちって日常の中で「これは違うんじゃないかな」「逆にこうなんじゃないかな」ってはっきりしたものじゃなくてもかすかに感じてると思うんですよ。だけど、無視してなかったことにしてしまう。自分の感覚を大切にするのは、自分の才能の種に気づくための大切な鍵じゃないかなって思いました。

瀬戸さん:本当にそう思います。たとえば、海外から同じ会社の人が出張で本社から日本に来たとき、デパートの前を通ると開店前に人が並んでるんですよね。それを見て彼はびっくりしたんですよ。「なんで? こんなに人が並んでるんだったらドア開けて中に入れればいいじゃん。だってお客さん待ってるんだよ」って。透明なドアの向こうにお店の人が立っているのが見えるんですよ。

ニシト:デパートってオープンのときにお迎えしてくださるんですよね。

瀬戸さん:僕は見慣れてる光景だから、おかしいとは気づかないんですよ。彼に「どうして入れてあげないの?」って聞かれたときに「えーっと、そういう決まりだから」って答えましたけど、それじゃあ納得できないですよね。

ニシト:あれは、きちんとお迎えしたい、お店がまだ準備ができてなかったときに申し訳ないという感覚ですかね。

瀬戸さん:あるかもしれませんね。たとえば小さなたこ焼き屋さんとかオニバスコーヒーでもいいんですけど。10時開店で9時59分に10人ぐらい並んでるのに、あと60秒待つのかどうか、とかね。

ニシト:日本の感覚では待つでしょうね。

瀬戸さん:「そうか、別に開けてもいいんだ」って と僕は彼から学びましたね。考えたこともないですよね。

ニシト:当たり前だと思ってるものって気がつかないですからね。同じように、自分の強みって当たり前になってると思うんですよ。たとえば私自身は、話すことが得意って思ったことがないんですね。自分にとって話すことって普通なんですよ。話すのが苦手という方が相談してくださったときに、自分が当たり前にやっていることができない方に出会えたときに「おお!これって当たり前じゃなかったんだ!」と教えてもらえる。自分の得意なことって、がんばっている感覚もあんまりないんですよね。

人気ビジネス書の『さあ、才能に目覚めよう!』という本で自分の強み(ストレングスファインダー)を調べたとき、問題解決能力が割と高いって出たんです。問題を見つけちゃう。そうすると解決策を考えちゃう。解決策を考えちゃうとおせっかいだから言いたくなっちゃう。誰にも頼まれてないのに。それって、やらずにはいられない「癖(へき)」に近くて、がんばっている感覚もまったくないんですよね。「それがあなたの得意なことだよね」って提示されてはじめて「おお! これって強みだったんだ!」っていうね。

瀬戸さん:おっしゃる通りです。僕のコーチをしてくださっているストレングスコーチの方から「自分の強みは自分の鼻のようなもので、自分からは見えない。けれど僕からはあなたの鼻が丸見え。相手からは見えるけど自分では見えない。それが強みなんですよ」って言われたことを今思い出しました。

ニシト:やっぱり周りの方が強みを教えてくださるんですよね。

この前、また別のコーヒー屋さんでインタビューしていたんですが、終わってからディレクターさんに「タレントさんとかミュージシャンとかじゃない、いわゆる素人さんから、ああいう本音やストーリーを引き出せるのって、ニシト以外にいないと思うよ」って言ってもらったんですよね。私、あだ名が「質問ちゃん」だったこともあって、聞かずにはいられないんですよね。知りたくなってどんどん聞いちゃうんです。

そのときに、相手の答えを「いい」とか「悪い」とか「正しい」とか「間違ってる」とかジャッジしてないんです。「そうなんだ!」ってそのまま受け取る。人ってジャッジされないと安心するんですよね。そうすると、本音が出てくるわけです。私の「好奇心」と「ジャッジしない」という無意識的に持ってるものによって、はじめて会った方が心を開いて語ってくださるんだなって。人から言ってもらってはじめて「ああ、そうなのか」って思いますよね。瀬戸さんは、まわりからどんなふうに言われます?

瀬戸さん:あれから?

ニシト:いえいえ、まわりから。あれからっていつからですか!

瀬戸さん:もうずっと喋り方に見とれていました。質問が頭に入ってこなかった。

書き起こし協力:サポーター渡辺幸子さん

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